誰にも言えない思いがけない妊娠をしたあなたへ
Language:
EN >※当サイトの内容やテキスト、画像、表、グラフ等の無断転載・無断使用・引用は固く禁じます。
ここでは、フランスの未成年用のシェルターについて、さまざまな形態が存在する中で、セーヌ・サン・ドニ県のあるシェルターでの調査をもとに記述していく。
パリ市やセーヌ・サン・ドニ県には未成年用のシェルターを民間団体が運営し、県の児童保護予算でまかなっている。子ども自身が希望してそこに滞在することができる。定員オーバーしている場合は、他の児童保護関連施設で受け入れられるところを探す。場合によってはホテルの費用を出したりして専門職が危機的状況が収まるまでフォローする。
根拠は72時間の法律である。2007年にできた72時間の法律は、未成年について本人から希望がある場合、児相や裁判所の手続きを通さず未成年を受け入れた機関の判断で72時間保護することができる。
「未成年が家を離れ、即座に危険に瀕する可能性がある場合、関係機関は予防目的で72時間を上限として未成年を受け入れることができる。その際親権を持つ人と裁判所に連絡をすること」とある。
シェルターなど未成年を受け入れた機関は72時間中に子どもと両親との間の調整をおこない、72時間後の報告書をまた裁判所に提出する。
期間内に帰宅が実現しない場合、親の同意がある場合は児童相談所経由で施設措置、親が同意しない場合は裁判所に判断を委ねる。
シェルター以外でも、例えば警察未成年保護班は家出していた若者が帰宅したくない場合、児童保護施設やグループホームのような場所も72時間の法律で利用することができ、地域の若者支援もホテル代を支払い専門職が同行する形で利用することがある。つまり、ニーズがあるときに場所については臨機応変に使えるようにしている。
家出は児童保護の対象と定められている。
学校で親子関係が悪い子どもや、家にまっすぐ帰らず寄り道している子どもにはシェルターの連絡先を教えている。学校の教師は学科担当で、子どもや親とのやりとり学校生活は中学校では教育相談員が担う。他にもソーシャルワーカー、心理士、看護師等さまざまな専門職が配置されている。
学校で配られているパンフレットにはこのように書いてある。
「着くとすぐに誰かと話すことができます
あなたの代わりに何かを決めたりしません
あなたの状況について一緒に考える時間をとります」
警察も家出があった際や親子喧嘩に介入した際はシェルターへとつなぐ。警察には未成年保護班という専門チームがあり、ソーシャルワーカーと心理士もいる。学校や地域のソーシャルワーカーなどからの情報で「未成年の所在がわからない」「帰宅していないようだ」という情報がある場合、親が捜査を希望しているか否かに関係なく捜査を開始する。当日中に携帯電話端末の所在を特定し、通話記録のあった先に電話しほぼ発見に至る。
警察は「家出したということは解決すべき問題があるということ」「不具合の症状」という理解でそのまま家に返すことはしないと言う。特に子どもが嫌がる時には絶対に返すことはしない。未成年保護班は子どもへの聞き取りや支援の専門の訓練を受けており、子どもがどのような問題に直面しているのか聞き親子間の調整を試みる。
帰宅したらまた問題が出そうな場合や性的ビジネスにつながる予感があるときはすぐに子ども専用裁判所の検事に電話し裁判官命令でまずは保護し、調査を8日以内に終える。検事の指揮のもと警察が動き、警察は検事にとっての目となり調査にあたる。女子の家出には通信記録の中に売春斡旋業者の声かけも含まれていることもあるので特に念入りに調査し犯人(容疑者)の逮捕や立件につなげることも多い。
(写真1:シェルター職員たち)
児童保護の対象は虐待ではなく「心配」であり、市民法375条で以下のように定めている。
「子どもの健康、安全、精神面が危険やリスクにさらされていたり、子どもの教育的・身体的・情緒的・知的・社会的発達状況が危険やリスクにさらされている場合」
特に家族、学校、社会との断絶はリスクとされ、断絶は、孤立した人間を社会に増やすと考えられている。若者たちは自分で「家族との関係が断絶しないように」「危険な状態にならないように」といった予防活動をしないので大人が予防する仕組みを用意している。
また2007年の法律で「子どもについての全ての決定において、1.子どもにとっての利益、2.子どもが物質的、知的、社会的及び情緒的に必要とするもの、3.子どもの権利、が優先される」と再確認されている。つまり、子どもの意思が尊重されるということと、予防的支援をすることで深刻な事態を防ぐという2つの観点がある。
(写真2:シェルター屋内の様子) (写真3:「親、けんか、自信、家族、苦しみ、悪さ」※シェルター提供)
セーヌ・サン・ドニ県のシェルターの施設長の言葉「子どもは一回しか助けを求めません。そのときにしっかりと応えることができなければ子どもはもう助けを求めなくなります。そうすると問題はより複雑になるのです」
家に帰りたくない場合、リスクのない安全な場所で過ごせ、かつ家族の調整をおこなうことは重要な予防になると考えられている。
家出という家族の保護を離れた状況で危険に瀕することがないことを目的としてシェルターが用意され、受け入れ機関には「子どもの視点を理解すること、状況を調査すること、どのようなサポートが必要か探すこと」が求められている。
まず若者の希望と考えを聞き、次に若者とは別の階で家族と話し合い、性的ビジネスに関わっている場合や親による不適切な扱いが見られる場合を除き極力親子間の仲裁ができるよう職員は尽力する。
シェルター職員は「短時間で若者たちに『ここにいたい』と思える場所にしないといけない」と言う。若者は怒りや悲しみ、落ち込み、「死んでやる」と言いながら来ることもあるのだが、6歳の子どものように自分のしたいことや想いを率直に話すことができるように手伝う。
面と向かった面談ではなく、シェルター職員がまずは一緒に買い物に行き、一緒に夕食を作って食べ、自宅のようにくつろいでもらってから一緒に絵を描いたりスポーツをして考えや表現を自然に出せるようにする。若者が表現し、考えを整理し、自己イメージを修復するのを助ける。
職員は1年目に児童保護、2年目に障害、3年目に成人の自立支援を学んでいる国家資格のエデュケーターを中心に、親子間の文化の違いなども考慮したケアをする民族精神科医、心理士、呼吸セラピスト、精神運動訓練士などがいる。日中8人、夜間3人を配置。
夜は「不安、罪悪感、ひらめき、決断」にエデュケーターが寄り添う。若者が主役として、自身で選択できるようにする。サポートは一対一だが、職員はいいアイデアを出し合えるよう必ず複数で対応する。
若者がシェルターに来る理由として一番多いのは親との喧嘩。原因として一番多いのが、携帯電話やインターネットの使用について、テレビゲームについて、そして勉強について。失恋を経験したり、彼氏のことを親に反対されたという人も来るし、暴力被害・加害も親や学校に相談しにくいことが多いのでシェルターが活躍する。
セーヌ・サン・ドニ県では、それまで年間3500人が児童相談所の緊急一時保護を利用している中で、20%の子どもが1週間以内に帰宅していたことから、そもそも緊急一時保護にならないように72時間以内の調整で防ぐことができたらコスト削減になり児童相談所の負担も減り親子も断絶を経験せずに済むという議論があり、シェルター創設の理由となった。
12歳から18歳未満の若者を受け入れている。毎年約250人利用しており、うち7割は女子である。
朝9時から夜8時まで年中予約なしで受け入れている。
宿泊は一回あたり3泊4日が上限だが、日中は何回来てもいい。数年来通い続けて合計15泊して状況を解決していった若者もいる。若者が来たいだけ来ることができる、時間を必要なだけかけることができるということが重要であると職員は言う。
シェルター職員は言う。「SOSサインを出している子どもは誰でも来ることができます。不具合のある状況や苦しみは様々なサインで表現されます。逃避的な態度、学校に行かなくなること、勉強をしなくなること、家出などです」「思春期としての新しい人生のスタートが切れる場所にしたい」
「現代の子どもたちは、情報が簡単に入る中で、自分の家が嫌になる気持ちも、自分の暮らしが惨めに思う機会も増えている。iPhoneを買ってもらえない、人気のスニーカーを買ってもらえないことが理解できず親に不満をぶつける若者もいる。ここでなら、家とは違った話し合いをすることができる」
「ここが私の二つめの家族」
「楽な人生なんてない。人に相談できることは将来役にたつと思う。
ここに来ることは10代にとって必要なステップ。
誰にでもまたチャンスがある」
「過去は忘れて、未来を見て。
過去に悲しみ、未来に絶望しか見えないなら横を見て、エデュケーターがいつでもいてくれるから」
子どもに十分なケアができなかった親は、自身のこともケアできていないことが多いので、親をケアすることで、親が子どもをもっとケアできるようになる。最初に「親もケアする意思がある」ことが相手に伝わることが重要であるとシェルター職員は言う。
「お子さんはうちにいます。お子さんはあまり元気ではありません。難しい状況なのだということがわかりました。ご両親にとっても同じだと思います。大変だったでしょう。子どもと家に帰れるためにどうすればいいか一緒に考えましょう」と伝えると、90%の親は数分後か翌朝には来て子どもがシェルターに宿泊することも了承すると言う。残りの9%も話し合いをするとほとんどは子どもがシェルターに残ることを認める。シェルター職員によるとほとんどの親は「ありがとう」「聞いてもらえてよかった」「初めて話を聞いてもらえた」と言うそうだ。
子どもが母親と話し合えないときは、母親自身も自分の母親と話し合えない関係性だったことが多いという。手に負えないと子どもを彼氏の家に泊めたままにする、どこにいるかわからなくても放置するなどの状況は親子のコミュニケーションがうまくいっていない場合が多いので、まず子どもを安全な場所で過ごさせた上で話し合いをする。
親自身にアルコール依存や借金や売春などの問題があって、それを問題だと思っていないとしたら、話し合って状況を解決することは難しい。自身に解決していない苦しみがあるということなので、より一層親のケアに力を入れる。親は皆「子どもを危険な状態に置くよりも話し合って解決の方法を探したい」と望んでいることは共通していて、誰でも自分の子どもに悪いことは起きてほしくないし辛い経験をしてほしくないと思っているため、どんなに文化や宗教や言語が違っても必ず話し合えるという。
県で配っている親への手紙には以下のように書いてある――「ティーンエイジャーは親と子どもの新しい関係性を築くチャンスです。完璧な親になるのは不可能です。親は子どもとの絆、愛情関係を壊したくないものなので、ティーンエイジャーの問題提起に適切に応え、ルールを定めるのは難しいことです。親の役割は最も重要で、親の振る舞い、使う言葉、態度、生き方は子どもに一番影響を与えますが、子どもは自分で選択をすることができる一個人であることも理解しなければなりません」
「両親が頑張り、今周りにいる人たちと一緒に取り組めるならやってみましょう」と励ましている。
シェルターではなるべくサポートする中でこのまま親子が一緒に暮らせるならその方がいいと考えている。
子どもにとっては「親との関係性が安定している」と感じることが大事であり、距離ができることによってその感覚が阻害される可能性があると考えるからだ。
親にとっても、できる範囲で子どもを支えるのが役割なのに、その役割から外されたと感じ、子どもが他の大人たちの中で育ち変わっていくのを見て遠い存在に感じることもあるので、親子の長期分離は避けられる方がいい。
シェルターに来てエデュケーターたちが間に入ることで、安全な家出ができるだけでなく、不具合がケアされないままでいる状態を改善することができ、親子の絆を結び直すことができる。
フランスではSNSで出会った見知らぬ男性宅で未成年が発見されることや、性ビジネスを逃げ場とすることは多くない。それは、売春やあっせんに対する壁が高いからである。以下が刑期と罰金の日仏比較である。
(表1:刑期と罰金の日本とフランスの比較)
(写真4:「私は夢の先まで行く、日が昇る場所まで。私の唇を見ればわかるはず、助けなんていらない、休むことも止めることもしない。いい生徒でも悪い生徒でも、私たちは皆同じ」※シェルター提供)
成人用は各種保護施設がある。滞在許可があるなしに関わらず利用できる家族用もしくは婦人用の保護施設、DV用シェルター、社会的ホテル(金額の低いホテルの部屋を各種福祉サービスが宿泊料を払い利用するもの)など。担当のソーシャルワーカーがニーズに合いすぐに利用できるところを探し出す。
なお、シェルターに関しては加害者側が家を出ていかなければならないルールであるため男性用のシェルターがある。
ニーズがある人の条件に合った受け入れ先があるかの判断ではなく、ニーズがある人の受け入れ先を探すのがソーシャルワーカーの役割である。
安發明子「絶望した若者たちは『家出』する… フランスの『ここにいたい』と思える場所」現代ビジネス、2020年11月6日。
安發明子「フランスに『親のための学校』がある『重要な理由』- 子どものケアは親のケアから」現代ビジネス、2020年11月18日。