誰にも言えない思いがけない妊娠をしたあなたへ
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ここでは、韓国の妊娠・出産に関わる制度やベビーボックスの取り組みや仕組み、ベビーボックスを利用する女性の背景や保護出産制度導入をめぐる動向について解説する。
韓国には匿名出産、内密出産制度導入に向けての議論はあるものの、現時点ではこのような取り組みはない。
-氏名を明かし自分の子どもとして育てる、もしくは一時的に預ける。一時的な預け入れ:施設か家庭委託になる。
※以下は自分で育てない選択
-氏名を明かし養子縁組に出す
-氏名を明かさずベビーボックスに預け入れる
戸籍制度はなく、養子縁組が成立すると、実母の「家族関係登録簿」から子どもの名前が削除される。
妊娠届を提出し、国民幸福カードを申請すると、バウチャーとして100万₩(約10万円)(多胎児の場合は140万₩、約14万円)が振り込まれる。概ね出産費用を賄える程度の金額である。
〇背景
・「危機的妊娠をした女性=未婚母」と捉えられ、子どもは養子縁組に託されるという流れが長年続いてきた
・2012年8月に施行された改正入養特例法~子どもの権利保障という点で大きく前進
→家庭裁判所による許可制が導入され、子どもが養親の実子として届け出られるという「藁の上からの養子」はできなくなる
→出生届を出せないということでベビーボックスへの預け入れが急増
〇預け入れ人数
・2020年~2021年12月までの合計1,935人(ソウルと京畿道の合計)
・9割以上面談実施
・約11%は実親により育てられ、2割強は養子縁組、残りは施設入所
〇ソウル市内の冠岳区にあるベビーボックスの仕組みは下記のとおり
・ベビーボックスの扉が開くとブザーが鳴り、子ども担当スタッフが子どもを保護している間に、相談担当スタッフは、預け入れに来た人との接触を試みる。
・2016年には、同じ敷地内にベビーボックスとは別に、ベビールームを設置した。その理由は、出産後に子どもとの別れを急ぎすぎることなく、女性が一息付けられるように、また相談へつながるようにというものである。ベビーベッドとソファー、シャワー設備がある。相談を希望する場合はベルで知らせることができる。
・相談過程を通じて、
→自分で育てるようになった場合は、毎月ベビーボックス側がベビーケアキットなどの支援を行う
→子どもを養子縁組に託すこととなった場合、養子縁組機関につなげる
→預け入れることになった場合は、警察と区の担当者に通告する
→通告後、子どもは管轄区の冠岳区老人青少年課担当主務官によって引き取られ、ソウル市立病院で健康診断を受ける。その後ソウル市児童福祉センターで一時保護、児童養護施設に措置という流れ
(グラフ1:ベビーボックスに預け入れる理由)
◎①養育困難、②養子縁組困難、③その他の3つに分類している。それぞれの内容は以下の通り。
〇「①養育困難」
・「経済的困難」が最も多い。預け入れた者に養育の意思はあるものの、経済的困窮により養育できないという理由が347件に上る。
・「一人での養育困難」もパートナーの死亡・行方不明・入隊などの長期間の不在による養育困難というケースであり、経済的困窮と重なる部分が多いと思われる。
・「心理的困難」は、未婚や離婚など、婚姻していない状態での子どもの出産に対する社会的なスティグマが理由となっている場合、両親の反対や親に知られることを怖れて預け入れる場合が含まれる。
・「非嫡出子」は、実母に法律婚の配偶者がいるが、その配偶者以外の男性との間に生まれた子どものこと。日本と同じように、韓国の民法においても、配偶者と離婚して300日以内に生まれた子どもは前夫の子どもと推定される
〇「②養子縁組困難」
・「出生届」が135件と最も多くなっているのは、養子縁組手続きのための出生届を出すことがハードルになっているためである。「非嫡出子」についても同様の理由が考えられる。
・「未成年者」とは、未成年者が出産した場合、未成年者の親権者である子どもの祖父母が養子縁組へ同意する必要があるというハードルである。
〇「③その他」
⇒周囲の支持が得られず経済的に困窮し育てられない場合と、出生届や非嫡出子のように他人に知られたくないケースがおおむね全体の8割を占め、そのほかに子どもの障害・病気、養育拒否、養子縁組の同意問題などとなっている。
(グラフ2:ベビーボックスの預け入れ人数 およびその後の行き先の推移)
ドイツをモデルにした保護出産制度の導入について、ベビーボックス運営者を中心に2017年から法案作りがなされている。
〇柱となる内容
・相談機関の設置・運営、緊急子ども保護所の運営、秘密出産に関する支援、秘密出産後の後見開始および養子縁組の支援、血統証書の作成および児童権利保障院にて保管、子どもが16歳になり実母の同意が得られた場合の実母の身元確認など
〇2019年5月「包容国家児童政策」発表
・「出生通報制」および「保護(匿名)出産制」の導入が示される
・「出生通報制」~出生届出制度では漏れが生じるリスクがあり、遺棄などを防ぐため、医療機関が出生した全ての子どもを国家機関に報告する制度を導入しようとするもの。
・それと同時に、出産を他人に知らされたくない女性のために「保護(匿名)出産制」を導入するという案である。
〇2022年5月11日に法務省より出生通報制度導入が発表される。「保護(匿名)出産制」の導入をめぐっても、2020年12月1日に金ミエ議員ほか議員有志によって発議された「保護出産に関する特別法案」について、2022年7月4日に討論会が開催された。
・賛成意見:予期せぬ妊娠をした女性は非常に弱い立場に置かれており、かつ他人に知られたくないというニーズが高い。遺棄、虐待死などの防止のためにも必要。
・反対意見:求められるのは女性のプライバシー保護よりも妊娠出産に関する支援であり、子どもの知る権利に反するため導入すべきではない。韓国は多くの子どもが養子縁組によって保護されてきた歴史があり、それがベビーボックス、保護出産制度へと模様替えするだけではないかという危惧。
⇒重要な点
・ベビーボックスを訪れる理由として、経済的困窮が最も多くを占めている状況に注目する必要がある。匿名性だけではなく、子どもを生まれた家庭で育てるという環境をいかに整えていくかに注力すべき。
・ベビーボックスが担っている相談機能を、匿名性が担保された形で拡充し、出産間際だけでなくより早い段階から女性に関わり、彼女らが自分と子どもに対する将来の見通しがもてるような支援体制を構築することが重要。
姜恩和「予期せぬ妊娠をしたすべての女性への支援」『見えない妊娠クライシス』かもがわ出版、2021年、98-120頁。
姜恩和「韓国のベビーボックスに関する一考察―相談機能と匿名性の共存が示す子ども家庭福祉の課題―」『子ども虐待の克服をめざして 吉田恒雄先生古希記念論文集』尚学社、2022年、209-222頁。
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フランスの匿名出産と出自を知る権利~母と子ども両方の権利を守るため~