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フランスの妊娠葛藤と男性~子どもに2人の親を与える~

 

ここでは、フランスの妊娠葛藤の状況や支援の方法、子の父(男性)への対応や、生まれてくる子どもの権利を守る司法と行政サービスの状況などを解説する。

 

 

妊娠中から児童保護の対象

 

 

世界人権宣言(1948年)25条 「妊娠期と子ども時代は特別な支援を必要とする(La maternité et l‘enfance ont droit à une aide et à une assistance spéciales)」とフランス語ではされているが日本では「母と子」と妊娠中を想定していないように読める表現になっている。

 

英語は(Motherhood and childhood)であり、妊娠中も含む表記である。

 

 

妊娠初期面談が義務づけられ、妊娠したら医療面だけでなく社会面心理面でも支援が必要かチェックされる。

 

そのために全ての産科に、産科専属のソーシャルワーカーと心理士が置かれることになっている。子どもの生まれてくる環境を妊娠中から整えようとしている。

 

例えば「妊娠を伝えたときに子の父の反応が期待と違った」などの妊婦の回答があった場合、即男性とも心理士の面談や家族セラピーが組まれる。心配があったときは県の担当部署に報告義務があり、担当部署は専門チームを指名し支援の提案をおこなう。

 

 

 

妊娠葛藤と子の父

 

 

妊娠中の女性が妊娠を継続できない理由、出産しても育てられない理由として調査では「経済的理由」が回答にあがりやすい。しかし、実際には無料で妊娠検査や出産ができ生活保障もあり、収入がなくても生活が可能である制度が用意されている。妊娠葛藤専門の社会的心理的支援機関によると、女性たちの話を聞くと実際は子の父と一緒に生活を築くことへの不確かさがあるという。そしてそれは、幼少期にお世話をしてくれたとても親しい人との断絶経験があったことが影響し、現在の人間関係にも絶望したり相手がいてもとても孤立しているように感じていたりしていると言う。妊娠までの間定期的にカウンセリングを続けても心に積もった話すことが多すぎて、現在の妊娠について話すことに出産までたどり着かないこともある。もっと小さいときからケアを受けていれば、妊娠したときに赤ちゃんを迎える心境は違うかもしれない。

 

保健所の組織である家族計画センターは13歳から婦人科検診や避妊薬の処方を無料でしており、性をきっかけに暴力被害経験などケアにつながる機会にしている。

 

匿名出産をした場合、子の父も2ヶ月以内であれば認知し引き取ることができる。

 

 

フランスの妊娠葛藤図1

 

 

男性に頼らない避妊法

 

 

家族計画センターで無料で選べる避妊法の種類

 

フランスの妊娠葛藤図3

        (画像1:家族計画センターで無料で選べる避妊法の種類)

 

親は子どもにとっての資源

 

 

親は子どもにとって重要な資源。

 

子どもに2人親を与えるため、妊娠中から父親は区役所に行き認知届を出す。

 

母親は産後認知するかどうか選ぶ。父母ともに認知しない場合は養子縁組可能になる。

 

母親は産後父親の認知を裁判所に請求できる。父親はDNA検査をするよう要求される。DNA検査を拒否すれば自動的に父親と決定し登録される。
18歳まで養育費の支払い義務が生じる。これを理由に国外逃亡する男性もいる。

 

子どもと遺伝的つながりのない父親が認知することも可能である。

 

「この男性には認知してほしくない、父親として存在しない方がいい」という母親の判断で、請求をしないこともある。

 

子どもの資源として親が子どもの教育に携わるため、子どもの不調時には両親ともに学校や児童福祉機関の支援の対象となる。「父親が役割を果たせることを支える」という言葉は支援計画や裁判官の支援目的でよく記される内容である。

 

 

フランスの妊娠葛藤図4

 

 

子どもの権利を守る司法と行政サービス

 

 

日本の婚外子2%に対しフランスは60%。つまり婚姻しない場合が多い。パックス(同性または異性の成人2名による、共同生活を結ぶために締結される契約)は結婚よりも少ない。

 

健康保険の家族部門である家族手当基金(CAF)は両親の別居などを把握できるため、別離を確認すると親子に連絡し、暴力被害の経験がないか、必要な支援が届いているか、特に利用できるサービスや手当を全て享受しているか1人ずつ会い状況を確認する。

 

CAFは養育費を代わりに取り立てたり(本人から支払いがない場合は雇用主に連絡し給料天引き)、手続きを待つ期間養育費を一部立て替えたりする。
また、面会の実現のために両親間のやりとりを仲介し、場所の用意や、立ち会いの心理士も用意する。

 

離別する場合は、両親は家庭裁判所(JAF)に子どもが生活する場と両親の間の行き来についての取り決め、養育費についての取り決めを提出する。その提出内容をもとに、適切でない対応がある場合にソーシャルワーカーが家庭内で調整をおこなう。

 

父親は子どもを認知したら、子の18歳まで養育費支払いや親権者としての義務がともなう。

 

 

フランスの妊娠葛藤図5

 

 

複数で子どもを育てる

 

 

2022年に法改正があり、市民法371-4 「子ども自身が頼りたい親戚や第三者を選び頼ることができる権利」

 

子どもが誰を頼るか、親ではなく子どもが選ぶことができることが確認された。

 

片親が望まない場合も、子どもはもう片親に会う権利が保障されている。

 

 

 

ポイント

 

 

-子の母が、子の父は誰か知っていて認知を望んでいるとき、出生後裁判所に申請することができる。男性は無視することができない。

 

-母も認知するか選ぶことができ、母が認知した場合、もう1人の親権者は遺伝的な父でない人を選ぶことができる。

 

-妊娠期は特別なケアが必要な時期とされ児童保護の対象であり、妊娠初期面談で父が子どもを歓迎しているか確認され、心配がある場合は手厚くフォローされる。

 

-父が子の母と離別しても父は子の18歳まで親権者であり養育義務が発生する。家族手当基金が母に代わって養育費の取り立てや立て替え、子が望む場合は面会をオーガナイズする。母親の意向に関わらず子は自分の頼りたい大人を頼る権利が保障されている。

 

-婚外子の方が多いが、不利にならない制度になっている。

 

-妊娠を継続できない、出産しても育てられない理由として経済的不安があげられやすいが、実際には女性の心理的葛藤が大きいことが多い。妊娠中の男性との離別についても女性が幼少期に断絶経験をしているととても大きなダメージとして経験されることがある。

 

フランス子ども家庭福祉研究者
ライター
安發 明子

 

<他国の状況はこちら>

 

●日本

 

日本の妊娠葛藤相談・女性の背景・居場所

 

●韓国

 

韓国の妊娠期支援〜短期間入所保護から自立支援、養育支援へ〜