誰にも言えない思いがけない妊娠をしたあなたへ

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日本の養子縁組

 

 

ここでは、日本の特別養子縁組を取り巻く背景や歴史、民間あっせん機関と児童相談所の特徴のちがい等について触れる。

 

 

実親が養育できない子どもの歴史

背景

江戸時代:医者や産婆による嬰児殺し

 

明治時代:(1869年堕胎禁止令、1872年の戸籍法、1880年刑法)赤ん坊譲渡・実子斡旋(匿名)

 

1973年 菊田昇医師の赤ちゃん斡旋事件(⇒実子特例法の主張)

 

1976年 人工妊娠中絶が28週から24週へ

 

1987年 特別養子縁組制度成立(実子特例法にはならず)

 

1990年 中絶が24週未満から22週未満へ

 

2007年 こうのとりのゆりかご開設@慈恵病院

 

2016年 改正児童福祉法(2017年度~全面施行)

 

2017年 新しい社会的養育ビジョン(改正児童福祉法の数値目標)

 

2016年 「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律」成立(2018年度~施行)

 

2019年 慈恵病院が内密出産導入を表明、2021年12月より内密出産に至った事例発生

 

2019年 民法改正(養子の年齢拡大、裁判の二段階方式等)(2020年度~施行)

 

 

出生数:81万1622人(2021年度)

 

人工妊娠中絶届出件数 14万1433件(2020年度)

 

妊娠数中の人工妊娠中絶の割合:14.4%(19歳以下は19.7%)(2020年度)

 

特別養子縁組の成立件数:683件(2021年度)

 

 

養子縁組の展開

 

日本には、養子制度(普通養子制度)が1896年(明治29年)の民法制定時から存在しており、現在でも未成年養子の多くは普通養子である。ただし、民法第798条に、自己又は配偶者の直系卑属を養子にする場合には家庭裁判所の許可を要しないとあり、最多と言われる連れ子養子(配偶者の直系卑属を養子とする縁組)を含む普通養子縁組の成立件数や内訳の全体像は不明である。

 

※1「普通養子制度の利用実態について」法務省民事局,令和3年10月

 

 

特別養子制度は,養子となる子どもの利益を図るものとして,1987年(昭和62年)の民法改正によって創設された。1973年、自ら赤ちゃん斡旋をしていることを新聞記事に掲載することにより、実子特例法の制定を訴え続けた菊田昇医師の主張の通りにはならず、特別養子縁組の場合でも、出生した子どもの名前は一旦実親の戸籍に入ることとなった。

 

普通養子縁組では、戸籍上養子の続柄は「養子(養女)、子」と記載されるが、特別養子縁組では、審判確定後の入籍手続きにより、養子の続柄は「長男(長女)」等と記載され、実子と変わらない表記となる。ただし、子どもの身分事項のところに、「民法817条の2による裁判確定日」と記載されるため、特別養子縁組の成立によって入籍したことがわかるようになっている。

 

 

2019年6月7日、特別養子制度創設以来の改正があり、2020年(令和2年4月1日)より施行となった。この改正では、養子となる者の年齢の上限を原則6歳未満から原則15歳未満に引き上げるとともに,特別養子縁組の成立の手続を二段階に分け、実親の同意の撤回ができなくなるリミットを短縮したことにより、養親夫婦の負担を軽減している。

 

特別養子縁組の成立要件を緩和し、この制度をより利用しやすいものとする意図があったためであるものの、すでに養育里親に養育されている中で6歳を越えた子どもの特別養子縁組以外は、高年齢児の特別養子縁組が推進されたとは言い難い。長く実親や親族家庭、または施設で養育されてきた小学生や中学生を新たに温かく迎え入れ、実子同様に愛し育てていきたいと願う夫婦は極めて少ないのが現状である。

実親と暮らせない子どもの現状

 

保護者のいない子どもや、保護者に養育させることが適当でない子どもを公的責任で保護、養育することを社会的養護と呼び、日本で対象となる子どもは42,000人にのぼる。日本では実親と暮らせず代替養育が必要な子どもの約77%が施設で生活しており、国際的にみても施設養護の割合が高い。

 

2020年度、乳児院で暮らしている子どもは約2,500人、児童養護施設で暮らしている子どもは約23,600人、一方、里親家庭やファミリーホームで暮らしているのは約7,700人(里親委託率22.8%、3歳未満は25.0%)であり、特別養子縁組が成立した子どもの数は693人であった。里親委託率は、自治体による差が非常に大きく、例えば3歳未満の里親委託率は、0%のところから70%を越えている浜松市、静岡市、福岡市のようなところまである。(厚生労働省・社会的養育の推進に向けて 令和4年3月31日)

 

 

民間あっせん機関と児童相談所の特徴

民間あっせん機関による特別養子縁組の特徴 ※団体によって差異がある。

 

民間あっせん機関は全国に23カ所。(2022年4月)

 

全国のにんしんSOS相談窓口 | 一般社団法人全国妊娠SOSネットワーク 

 

2018年度から施行となった「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律(あっせん法)」により、各事業所の所在地を管轄する都道府県知事の許可を受け、法に則った事業を行うこととなった。本法律、指針、通知により、国内委託優先、実親支援、同意の取り方、養親研修の義務付け、養親の適性、都道府県への報告義務、成立後支援、人員の資格、手数料の範囲等、細部にわたり業務上のルールが定められた。

 

 

<実親支援>

 

生活保護や保険、住所変更の手続き、妊娠中の居場所の確保、医療機関や保健センターへの連携依頼や同行といった支援をしつつ、養育・特別養子縁組の情報提供と準備を進める。メールやLINE、ショートメッセージ、カフェやファミレスでの面談等、実親とのコミュニケーションが取りやすい方法を使うことができ、実親対応した職員が養親対応も行なうことで、真実告知やセミオープンアダプションへの支援が容易となる面もある。

 

<対象となる子ども>

 

民間機関では、妊娠期からの相談が多いため、新生児期に養親候補者に委託されることが多いが、実親や児童相談所から民間機関へ幼児や児童の委託を依頼されることもある。一般的に、相談から委託までの期間、家庭裁判所への申し立てまでの期間が児童相談所よりも短い。

 

<管轄>

 

実親も養親も全国から相談ができ、管轄はない。

 

<費用>

 

生活困窮にある実親の生活費や健診・分娩費は、あらゆる公的支援や相手男性・家族の援助を求めることが原則である。生活費や出産育児一時金・助産制度で賄える分娩費まで養親に負担させることは禁じられており、全て養親に負担をお願いする前提で進めることは、実親に借金を作ることによる特別養子縁組への強制力や営利目的となりかねないため注意が必要である。

 

養親は、民間あっせん機関に対し、必要な手数料と実費の支払いをするが、養親希望者手数料負担軽減事業を実施している都道府県や市の在住者へは、上限40万円(2022年度)の補助がある。

 

<養親支援>

 

書類や家庭調査を含む審査、座学3日間+実習3日間のあっせん機関独自の法定研修、委託後の養育や裁判のアフターフォロー等、法と指針・通知で定められた養親支援を行うこととなっている。子どもとのマッチング前に養親研修を終えていること、全国の養親候補者の家庭調査や長期的なアフターフォロー、各ケース6段階にわたる都道府県への報告も定められ、第三者評価も入るため、各機関の力量が求められるようになった。

 

<実親と子どもの関わり>

 

実親と養親子の双方が希望すれば、仲介した民間あっせん機関を通して子どもの写真を実親へ送ったり、子どもの誕生日やクリスマスなどの節目に手紙やメッセージを送ったりできる「セミオープンアダプション」を行なっているところもある。養親の子どもへの真実告知が自然なものとなり、実親の喪失感からの回復、自己肯定感の確立にも有用とされている。

 

児童相談所による養子縁組の特徴

 

<実親支援>

 

特別養子縁組の相談支援が業務に位置づけられ、保健センターや福祉、医療機関との連携で妊娠期からも、すでに養育中でも実親への支援を行うこととなっている。基本的に、相談ツールが電話と面談によるコミュニケーションという現代の妊娠世代には合わない面もあり、また、当事者が「虐待する親と見られたくない」「子どもを施設に入れたくない」という思いから遠ざかる傾向もある。

 

<対象となる子ども>

 

法的には、新生児から15歳までが対象であるが、3歳を越えて児童養護施設に入所中となっている子どもの特別養子縁組は極めて少ない。新しい社会的養育ビジョンでは、乳幼児の施設への新規措置入所が原則停止となっており、養子縁組里親の準備に時間を要する場合等は、養育里親の家庭でまず一時保護する児童相談所もある。しかし、多くの児童相談所では、子どもを一旦施設に保護するという従来の方法を取っている。

 

<管轄>

 

児童相談所の管轄に在住する実親からの相談を受け、同都道府県内の養子縁組里親へ委託するのが主である。一方、他県の児童相談所との連携や、民間あっせん機関との官民連携で、子どもの早期家庭養育を目指している児童相談所もある。

 

<費用>

 

実親は、子どもが施設に措置されている間の措置費や、子どもの保険料を所得に応じて支払うこととなる。養子縁組里親は、児童相談所への手数料の支払いはなく、逆に審判確定まで養育費が支給される(一般生活費:乳児60390円/月)。里親手当の支給はない。

 

<養親支援>

 

養子縁組前提の里親が法定化され、里親研修の義務化、欠格要件、名簿の登録等が規定されている。里親研修を受講すれば、審査が通らず里親登録に至らないということは少ないが、子どもの委託がなく長期にわたって待ち続ける夫婦も存在する。委託後は、里親サロンを開催しているところもあるが、養子縁組里親の審判確定後の長期的なアフターフォローとしては確立していないところも多い。

 

<実親と子どもの関わり>

 

基本的に、実親が子どもの委託後の成長を写真で見たり、子どもや養親へ手紙を送ったりする児童相談所を通したセミオープンアダプションを行うことはなく、クローズドアダプションとなる。

 

実親が養育できない子どもの永続的な家庭養育の推進へ向けては、児童相談所と民間あっせん機関両者の専門性と連携が求められるが、両者ともに自治体、事業者による実践力の差異は否めず、全国的な官民連携による特別養子縁組の推進の道のりは長い。各児童相談所、事業者職員の地道な研鑽と、許可をした都道府県担当課によるあっせん法、指針、通知に基づいた適切な助言・監督がなされることが求められる。

 

 

記録の管理とルーツ探し

 

2018年度より施行された「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律」により、あっせん機関が許可の取り消しや廃業となったときは、実親・子どもの記録を「都道府県知事又は他の民間あっせん機関に引き継がなければならない。」とされている(法第19条)

 

あっせん法の施行後に許可された事業者については、この法によって記録の保管、引継ぎが行われることとなっている。そもそも養親は、実親の情報を児童相談所やあっせん機関から聞き、裁判記録からも把握することができる。また、養親が子どもを迎え入れた日から実親のことをどのように語り、周囲にはどのように話していくのかは、あっせんした機関の業務の一つである。そのため、実親の情報が一旦子どもから引き離され、実親のことを知らない子どもがいつかその情報を探しに行くという時代ではなくなっているはずである。

 

しかし、2018年度からのあっせん法の施行にともなってあっせん事業をやめた医療機関や法人、任意団体等や、もっと以前にすでにあっせん事業を終了していた法人や産婦人科医会、個人等は、あっせんしたケースの記録の保管や引継ぎを求められていない。委託をしたときから子どもや周囲へ真実告知をすることが当然となっている現在とは異なり、子どもが養子であることを隠したまま養育していたような時代の記録こそ、保管、引継ぎをし、丁寧に子どもに開示していくことが必要であろう。あっせんした機関、団体の関係者が生存しているうちに、実親が生存しているうちに、韓国のように、どこかに保管されている記録や当時を語れる者からのストーリーを回収し、保管する作業を急ぐこと、その役割を専門的に担う機関が設置されることが切に求められる。

 

一般社団法人全国妊娠SOSネットワーク 理事
一般社団法人ベアホープ 理事
助産師
赤尾 さく美

 

<他国の状況はこちら>

 

●韓国

 

韓国の養子縁組

 

 

●フランス

 

フランスの養子縁組  ~子どものニーズに応えられる養親を選ぶ~