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フランスの妊娠葛藤と匿名出産~母と子を守る~

 

ここでは、フランスの妊娠後の選択肢や匿名出産の状況、妊娠葛藤専門相談窓口について解説する。

 

 

フランスの妊娠後の選択肢

 

 

避妊し、中絶し、育てない選択をすることができる

 

フランスには内密出産はない。

 

– 氏名を明かし認知し自分の子どもとして育てる、もしくは一時的に預ける

 

※以下は自分で育てない選択

 

– 氏名を明かし認知し養子縁組に出す

– 氏名を明かし認知せず養子縁組に出す

– 氏名を明かさず認知せず養子縁組に出す – 匿名出産

 

戸籍制度がないため、出生証明書は養子縁組まで仮のものを行政が作る。養子縁組までの間のステータスは「国の子」である。

 

避妊、婦人科診察、妊娠検査、中絶、出産費用は無料である。その後も経済的支援があるため経済的理由で子どもを育てられないということが起きない制度になっている。保育料は収入の1割、3歳からの義務教育は無料。大学や専門学校も無料か年間3万円程度で選択肢は揃う。

 

 

 

匿名出産

 

背景

 

中世から教会が塔(tour)で育てられない子どもを受け取っていた。洗礼を受けずに亡くなるのは耐えられないことであっても、教会で幼くして亡くなったとしても天使になれるので否定的なこととはされていなかった。

 

1789年のフランス革命によって公衆衛生は国の役割となり、
1793年に国がその役割を引き継ぎ全ての病院の産科で匿名出産ができるようになった。

 

公立私立関わらず最寄りの病院が受け入れるルール。

 

匿名出産の仕組み

 

公立私立問わず全ての病院で匿名出産希望者がいたら受けなければならない。

 

家族計画センターや保健所も無料で婦人科検診が受けられる場所なので窓口となっている。

 

病院で匿名出産を希望すると伝えれば身分証などの提示が求められない。

 

産科には必ずソーシャルワーカーと心理士が配置されているので、ソーシャルワーカーが指揮をとる。

 

各県に2人ずつ配置されたCNAOP(クナオプ 出自情報へのアクセスに関する国家諮問委員会)担当者が即日産科を訪問し女性に会う。

 

CNAOP担当者はまず、育てることを望む場合は支援が受けられることを説明する。匿名出産の制度の説明をする。それでもやはり匿名出産を希望する場合、情報を残すことが子どもにとってとても重要であると説明する。CNAOPへの聞き取りによると何1つ情報を残さない人は毎年1人いるかどうかであり、理由を説明するとほとんどの女性が子どものために情報を残す。聞き取り項目はファイルに記されている。

 

 

産後2ヶ月猶予期間がある。その間であれば父母は引き取りをすることができる。

 

猶予期間を過ぎると、養子縁組のプロセスに入る。その後も母親は子どもに情報を追加で残すことなどができるが、子どもが情報にアクセスしない限り子どもには届けられない。子どもが望まない限り交流もない。

 

猶予期間は積極的な意味合いでとられている。匿名出産の多くが妊娠否認があり、直前まで自身の妊娠に気づいていなかったり、意識的に準備ができていないことが多い。誕生時はショック状態だったということもある。一般のように10ヶ月かけて誕生の準備をしているわけではないため、子どもについて考える期間が必要とされている。実際に15%もの女性が引き取りをしている。

 

子どもにとっても、専門職たちが子どもを手厚くケアし、子どものニーズを理解し、子どもに合った養親を選べるようにする。

 

養親のもとに委託された日から養親が養子縁組休暇、子ども手当など養育者としての権利を享受するので、実親にとっても養親にとっても区切りが明確である。

 

利用者

 

毎年安定して600人前後が利用している(出生数の0.08%)。

 

ほとんどの女性が子どもに情報を残す。

 

うち100人は2ヶ月間の猶予期間内に引き取り(15%)。

 

 

匿名出産で生まれた子どもの99%が国の子ではなくなっている。82%は養子縁組成立、15%強は実親が認知。

 

特別な事情のない子どもは約2.7ヶ月で養親のもとに移動、病気や障害のある子どもは6.2ヶ月と少し長くかかっており、病気や障害のある子どもの半数は他県で養親を見つけている。

 

女性たちの背景

 

匿名出産についての研究

(835人の匿名出産をした女性への調査)

 

フランスの妊娠葛藤と匿名出産グラフ1

 

         (グラフ1:匿名出産の理由)

 

7/10人が中絶が認められている16週を過ぎてから妊娠に気づいた。

4/10人は妊娠7ヶ月以降に気づいた。

« Les femmes qui accouchent sous le secret en France, 2007-2009 », Population, 66 (1), 2011, p. 135-170.

妊娠の否認

 

妊娠の否認(déni de grossesse) 出産まで妊娠に気づいていない女性も多い

 

妊娠に悩みを抱える女性を支える団体

匿名出産をする女性は妊娠に気づくのがとても遅い人が多い。妊娠を頭の中で拒絶しているので、胎児も背中側にへばりついていてお腹が膨らんでいない、不正出血が続いていて生理が来ていないことに気づいていない、出産まで妊娠に気づかなかったということも多い。

 

産科ソーシャルワーカー

匿名出産をする女性の多くは妊娠を否認しているので、妊娠を他者に知られたくないというよりは、女性自身が妊娠後期まで妊娠した事実に気付かないことが多い。匿名出産を選択する要因は社会的経済的理由ではなく、頭の中で子どもを迎える準備ができているかどうか。

出産時に初めて妊娠していたことを知った場合、理解や整理に時間が必要である。

 

 

フランスの妊娠葛藤と匿名出産図1

 

妊娠葛藤専門相談窓口

 

 

妊娠に悩みを抱えた女性専門の無料心理相談(以前は法律で各県に配置が義務づけられていた)

パリ市MOISEへの調査結果より(2020年1月訪問)

2018年は88件をフォロー、63件出産したなかで匿名出産13件(匿名出産希望していたが自分で育てる決断した10件)平均25歳(14-43歳)

 

目的

女性の抱えているものを軽くすること。子どもが感情的な負荷を負わずに誕生できるよう支える。

 

傾向

匿名出産を望む女性は社会的経済的状況がいい人の方が多い。

「精神的に子どもを持つことが受け付けられない」という状態。

人と距離を置き、頼らない。子ども時代にケアを受けられていれば妊娠を機にここまで苦しまずに済んだ。

 

 

妊娠を拒否する=自分の親からも拒否されているという感情を持っている(意識の裏に追いやっていた辛い記憶が妊娠を契機に意識の中に戻っている)

 

望んだ妊娠であっても、苦しく感じていて、それを誰にも話していない。育てるかどうかは大事な決断だからこそ決断を誰かに左右されないため話していない。

 

実際誰かに話すと100%結果的に子どもを育てることになるが、本意ではないと母子ともにあとあとまで苦しみを抱え続けることになる。

 

匿名出産という制度があることで、選択しなかったとしても選択肢が存在することで追い詰められなくて済む。遺棄といった事態を防ぎ、心の整理をして子どもを迎えるか送り出すかすることができる。

 

匿名出産のプロセスにはプロフェッショナルの寄り添いが必須。女性が自分自身の望む選択ができるように。

 

 

 

ポイント

 

どのような社会支援が用意されていても、毎年600人前後の利用者がいるということは、育てられないと判断する女性がそれだけ存在しているということである。日本はフランスの1.5倍出生数があるので、約900人と概算することができる。

 

匿名であるが海外からの利用者は多くない。

 

 

・匿名無料で診察を受けたり相談できる公的機関が身近にある。

 

・選択肢があることで追い詰められなくて済む。

 

・経済的な事情で子どもを諦めなくていいような仕組みがある。

 

・無料で妊娠検査、出産でき、健康保険で家事育児のサポートが頼め、保育は収入の1割で夜間や週末に対応した保育アシスタント制度もある。週末だけ里親といった方法もある。

 

・収入が少ない場合は基本的に無料で大学、大学院も行くことができる。

 

・妊娠中に悩みがある場合は、ケアを受けることで親も子どももより良い状況で次のステップに進むことができる。

 

・育てたいかどうかという母親の意思を尊重することが大事。無理に母親に育児を押し付けても母親も子どもも苦しむことになると言われている。

 

・インターネット検索でも公的機関の公式な情報しか出ないように整備されている。

 

 

引用

 

安發明子「フランスの匿名出産、養子縁組、里親」『対人援助学マガジン』第 45 号 2021 年 6 月

 

安發明子「赤ちゃんを殺す親についてフランスでわかっていること」現代ビジネス 2020.05.25

フランス子ども家庭福祉研究者
ライター
安發 明子

 

<他国の状況はこちら>

 

●日本

 

日本の妊娠葛藤相談・女性の背景・居場所

 

日本の妊娠を知られたくない女性たち

 

 

●韓国

 

韓国の妊娠期支援〜短期間入所保護から自立支援、養育支援へ〜

 

韓国のベビーボックス