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韓国の養子縁組

 

 

ここでは、韓国の養子縁組の展開と状況、養子縁組斡旋機関やルーツ探しに伴う記録の管理方法の状況について解説する。

 

 

養子縁組の展開

 

 

・民法に定められた養子縁組(「普通養子縁組」および「親養子縁組」)に加えて、養子縁組特例法に基づく養子縁組(以下、「特例法養子縁組」)が存在する。

 

・「特例法養子縁組」は、朝鮮戦争(1950〜1953年)後の混乱期に外国人が韓国人孤児を養子に迎えた海外養子縁組に端を発するもので、1961年に制定された「孤児養子縁組特例法」によって正式にその要件が規定され、1976年には国内養子縁組にもその対象が拡大された。

 

・特例法養子縁組は、要保護児童を対象とし、その保護のために民法に特例を認めたものであり、長男でも養子になることができ、養親の姓への変更も認められた。特例法養子縁組は、国または自治体の許可を受けた養子縁組機関によって斡旋され、家庭裁判所の審判を必要とせず、戸籍への届出によって普通養子縁組の効力を持つ。しかし、養親の戸籍に「養子」として記載されるため(この点は日本の普通養子縁組と同じ)、2011年の法改正以前は、特例法国内養子縁組の大多数は養親が「虚偽の出生届」を提出し、戸籍上は実子として記載された。

 

・民法改正によって2008年に家庭裁判所の許可を必要とする断絶型の「親養子縁組」が創設された。これは日本の特別養子縁組に類する制度だといえるが、対象を要保護児童に限定していない点で特別養子縁組と異なり、連れ子養子縁組を含む。

 

 

入養特例法改正

 

 

・韓国は1991年に子どもの権利条約に批准しており、国連子どもの権利委員会からは、2020年9月に第5・6次国家報告書(2018年11月)に対して、養子縁組に関して、子どもの最善の利益がすべての年齢の子どもたちの養子縁組手続きの上で最も優先して考慮されるべきであること、未婚母に対する偏見をなくし、彼らの自発的な同意を義務付けること、ルーツ探しの権利の周知を保障すること、ハーグ条約の批准に向けて、国外養子縁組に関する法律を制定すること等の勧告があった(国連子どもの権利委員会2020)。

 

・虚偽の出生届を容認する運用に対しても批判の声が高く、2011年8月に子どもの権利擁護を重視する形で「入養特例法」が全文改正され、2012年8月に施行された。

 

・この改正入養特例法では、養子縁組は子どもの利益が最優先されるべきであるという条文を設け、家庭裁判所による許可制以外にも、養親の基準強化、実親の養子縁組同意の熟慮期間の創設、養子縁組当事者による養子縁組情報へのアクセスの保障など、子どもの権利保障という点で大きく前進した。

 

・その一方で、運用上認められていた「藁の上からの養子」ができなくなり、出生届を出せないという理由でベビーボックスへの預け入れが急増する事態が起きた。ベビーボックスへの預け入れは年間200人前後を推移しており、保護出産制度の導入をめぐる議論が行われている。

 

 

養子縁組斡旋機関

 

 

・海外・国内養子縁組斡旋可能な機関(ソウル市内):ホルト児童福祉会、東方社会福祉会、大韓社会福祉会

 

・この3箇所の全国支部:21箇所

 

・その他の民間機関:6箇所(国内のみ)

 

・公立機関2箇所:ソウル特別市児童福祉センター、釜山広域市児童保護総合センター

 

 

児童権利保障院設立

 

 

・2019年1月15日に児童福祉法改正が行われ、児童権利保障院が設立された。その目的は、児童政策に対する総合的な遂行及び児童福祉関連事業の効果的な推進のために必要な政策の樹立を支援し、事業評価等の業務を遂行するためのものでる。

 

・それまで分野ごとに民間機関が担っていたものを、児童権利保障院へ統合し、公的責任が強化された。

 

・養子縁組については、中央養子縁組院が児童権利保障院へ統合された。

 

 

記録の管理とルーツ探し

 

 

・韓国の養子縁組制度の改善に大きな役割を果たしたのは養子縁組当事者である。1980年代は最も多くの海外養子縁組が行われていた時期であり、彼らが成人して韓国を訪問するケースが増え、当事者の声が社会にも届くようになった。彼らは,経済的に豊かになった韓国でなお海外養子縁組が行われていることは国の恥であるとし、白人でもなく韓国人でもないというアイデンティティの問題などを語るようになった。

 

・当事者団体の草分け的な存在の社団法人海外養子縁組当事者連帯(GOAL)は1998年3月に、家族探しや、母国の文化や言語を学ぶために韓国を訪問する養子縁組当事者を支援することを目的とし、外交通商部傘下の非営利団体として設立された。彼らが抱える最も大きなニーズはルーツ探しである。

 

・2012年特例法以前は、情報公開に関する法的根拠はなく、自分が養子縁組された機関の善意に頼るしかない状況であった。しかし、養子縁組機関に記録が残っているとしても、とくに海外で苦労を重ねてきた当事者の場合は養子縁組機関に対する不信感を抱いており、提供された情報を信用できないという状況も生じていた。

 

・このような背景から、ルーツ探しへの法的根拠を求める声が高まり、2012年施行された改正入養特例法にて、担当機関として中央入養院(現児童権利保障院)が創設されることとなった。中央入養院の業務内容は、養子当事者・家族情報および家族を探すために必要なデータベースの運営、養子当事者のデータベース構築および連携、国内外の養子縁組政策およびサービスに関する調査·研究、養子縁組関連の国際協力である。とりわけ、各養子縁組機関が保管している養子縁組の記録をすべて引き継ぐ作業を行っている。養子縁組記録は永久保存とされ、民間機関が廃業する場合は、すべての記録は児童権利保障院へ移管される。

 

※養子縁組情報公開請求手続きのフローチャート

 

 

韓国の養子縁組図

             (図1:養子縁組情報公開請求手続きのフローチャート)

 

 

養子縁組の推移(1958-2020)

 

 

韓国の養子縁組表1

                 (表1:養子縁組の推移(1958-2020))

 

 

国内養子の背景(1958-2018)

 

 

韓国の養子縁組表2    

(注)*この年代は、各属性の合計と全体数に80人の誤差があり、属性ごとの合計は14,852人である。各背景の割合は、属性の合計から算出した。
資料:保健福祉部(各年) 『国内外養子縁組統計』。

                                       (表2:国内養子の背景(1958-2018))

 

 

海外養子の背景(1958-2018)

 

 

韓国の養子縁組表3

                 (表3:海外養子の背景(1958-2018))

 

・養子縁組の背景として未婚母が占める割合は高く、父系中心的な家族規範からもたらされるスティグマ、子どもを育てるための環境が整備されていないことなどに伴い、多くの子どもが養子縁組に託されてきた。

 

・しかし2000年以降は養育支援・自立支援に力を入れるようになり、少子化とも相まって養子縁組に託される子どもは減っている状況である。他の背景を合わせても養子縁組に託される子どもは減少傾向にある。

 

 

引用

 

 

姜恩和・森口千晶(2016)「日本と韓国における養子制度の発展と児童福祉―社会的養護としての養子縁組を考える―」『 経済研究』 67(1)

 

姜恩和「韓国の養子縁組の実践と課題―記録とルーツ探しの観点から―」『ソーシャルワーク研究』 47(2),、2021年、93-97頁。 

 

姜恩和「予期せぬ妊娠をしたすべての女性への支援」『見えない妊娠クライシス』かもがわ出版、2021年、98-120頁。

 

姜恩和「韓国のベビーボックスに関する一考察―相談機能と匿名性の共存が示す子ども家庭福祉の課題―」『子ども虐待の克服をめざして 吉田恒雄先生古希記念論文集』尚学社、2022年、209-222頁。

 

目白大学人間学部人間福祉学科 准教授
姜 恩和

 

<他国の状況はこちら>

 

●日本

 

日本の養子縁組

 

 

●フランス

 

 

フランスの養子縁組  ~子どものニーズに応えられる養親を選ぶ~